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以下の文章は、日本在住の脱北者、木下義雄さんが書いてくれたものです。長文のため一部を省略した以外は、一部の句読点などを直しただけでほぼそのまま紹介しております。脱北者自身が読み、評価する好著として、是非皆様にもご一読をお薦めします。
書評 北朝鮮の子供たち 脱北少年が見た“楽園”の真実
カンヒョク/著 桧垣嗣子/訳(文春文庫)
評者 木下義雄(脱北者、日本在住)
私はこの度カンヒョク(姜 赫)君が書いた回想記《北朝鮮の子供たち》を読んで深い感銘を受けました。
それは彼の優れた記憶力で当時北朝鮮での日常生活について、飢饉が襲った独裁社会の恐怖と不安、不信、そして腐敗化した当局達の反国民な政治。非人道的な措置、人間としての無権利、自由の不毛地帯について、又自分自身が悪い事を犯したり、盗み事をしたりした事をありのまま、詳細で率直に書いたエピソードだと思いました。
特に浮浪児(コッチェビ)達の悲劇像を生々しく書述していたと言う点が、私の心を熱く感動させました。それは私もその様な悲劇を日常的に見たり聞いたりしていたので、文章を読んで行くたびに当時の光景が目の前に甦って来ました。(中略)
今度この本を読んで印象的な内容は、公開処刑の様子や学校の先生、病院の外科医、労働鍛練隊の役人等皆、焼酎一本、タバコ何個、お金やワイロ少々で住民や学生、罪人の立場や待遇が一変する腐敗化した社会的構造をありのまま、生々しく書述した点でした。
私は、その学校の先生や外科医、鍛練隊や権力組織の不法行為について、当事者を憎んだり批判しても無駄な事だと思っています。その人達は自分に与えられた地位や権力を、悪用してでも生きていくしか、他の方法や手段が無いからだと、今は客観的な立場になって考える様になりました。
又、著者本人が不良グループと仲間になって、悪い事をしたり盗み事をした事の話、これは皆飢餓状態から自分自身を救い出すための、生死を賭けての解決策だったのです。本人が言った通り、たとえ身内の人の事でも自分自身意外の不幸はどうでも良い・・・・・
自分の胃袋の方が良心より何千倍重要で有ると言う事。
でなければ自分自身が死んでしまうから・・・・・・
死んでしまえば山腹に掘った黒い穴に埋められてしまうから・・・・・
食糧飢饉が人間の罪人を造り個人利己主義者を算出し助長させたのです。
特に胸が痛く悲しい事実は、何の罪無き、可哀想な幼稚園に通う位の子供が親に捨てられ社会から捨てられ餓死していく痛々しい有様です。
この本でカンヒョク君は当時浮浪児(コッチェビ)について、直截に、正確に表現していたと思いました。彼は、<・・・市場の売店で小さく弱い子供は一握りの揚げ物を盗んだりすれば用心深い客にあっと言う間に捕まって足で蹴飛ばされ、めちゃくちゃに殴られたりするのもちゃんと分っていた。だが絶望のどん底にいる彼らはそれでも目の前にある食べ物を奪うと逃げようともせず、うずくまり身を丸くして時には激しい殴打を受けながらむさぼり食うのだった・・・>と書いています。
この様な現実は、私も前あっちこっちで良く出会う光景だったので、本当にそうだったと心の中で頷きました。
大人さえも、飢えに襲われれば、子供の手から食べ物を横取りして、自分の口の中に入れ、何の良心の呵責を受けないのが現在の北朝鮮であります。
食糧飢饉は、人間皆を不安、不信、恐怖に支配された世界では人間同志、互いの思いやり、同情などが通用せず存在しなかったのです。
特にカンヒョク君の場合、北朝鮮で生まれ育った少年時に、国の政策や社会環境が人間の生き方、考え方をゆがめ、決定させ、彼の成長過程に大きな影響を及ぼす事になったし、この事実は、国民全体を何処の国へ行っても通用する事の出来ない無知、無能、愚鈍な人間に造ってしまったのです。
現在北朝鮮の住民達の日常生活状態、国を支配し君臨している金正日の非行、幹部達の権力悪用に付いて、現在韓国や日本人の方々は、いくら本を読んだり話を聞いたりしても、奥深い真相は直接身に触れていない以上、とてもその全ては理解出来ず、他の国の人から見ると、現在の自分たち外国人の常識から見ても、北朝鮮で起きていることは到底あり得ない事だと思い、信じ難いはずです。唯一体験者だけが知っている事だと思います。
次に述べたい事は、当時カンヒョク君は、色々と苦しい環境の中で、勇気を持って生き抜いたのは本当に喜ばしい事でありますが、そこで生まれ育ち、学生生活の全過程で自分が苦労したり差別されたり、学校時代から労役に動員されたり、社会や家族の飢饉状態が何故、誰の誤りで、なぜ起こったかを全然知らず金日成、金正日を心から崇拝していたと言う点が私と違った点でした。社会的矛盾に対しての原因を知っていなかったと言う事です。
これが大概北朝鮮で生れた人達の特徴でした。
ただ、この本で疑問があったのは、穏城炭鉱の坑内の中にも金日成、金正日の肖像画がかけられていたと書いてありました。これは絶対あり得ないことです。金正日は前から爆発危険な所、ほこりっぽい所に肖像画をかけるなと命令したため炭鉱の坑内に金父子の写真をかけなくなっていました。次に穏城(オンソン)からピョンヤンまで汽車で5時間かかると書いてありました。これは、学生時代ピョンヤンへ行ったり、他の地方へ旅行に行ってないのでそうだと思いました。会寧からでも24時間だから穏城はヘリヨンより二時間も遠い所に位置しているので正常運行で26時間かかると思っています。食糧飢饉の時期は早くて一週間あるときは15日から1ヶ月かかった時もありました。
現在カンヒョク君は、小さな小柄の体、北での思考方式、生活環境そのままで、韓国でも周りの人達とケンカをしたりするため、差別を受けていると書いてありました。
北朝鮮よりずっと近代的で豊かな韓国社会にまだ慣れていない様です。本当に残念な事だと思います。
この事情は日本に居る脱北者の若い世代にも同様な方々が多少居るので、一日も早くその社会に適応される様に本人自身が努力するしかないと思っています。
私として一言述べたい点は、日本の守る会の人達が、脱北者の若い世代と中高年世代との交流会、座談会懇談会と言う適当な機会を与えて互いに心を打ち明けて、生活上一番困っている事、就職の問題や悩み事に対しての相談、これから未来に対しての願望等、色々なケースがあると思います。現在脱北者同志は顔も名前も良く知りません。私自身がそうです。互いに会って話し合う過程で理解し合い助け合い、ポジティブな方向に、心と心の交流が成立し、互いに暖かい仲になっていくと思っています。
韓国では、脱北者が地方別に月に一度位バスに乗って見学に行ったり、観光に行ったりすると良く聞いています。
今日本の脱北者達には、ほとんどそのような情緒、交流生活がないのが残念です。脱北者同志が集まるとトラブルが起きたり、ケンカをしたりするとは、大きな間違いだと思います。
この点を是非参考にして下されば、ありがたく思います。私一人の意見では決して有りません。私が代弁して述べる次第であります。
この度本当に良い本を見せて下さった三浦さんに感謝しています。これからもどうぞ宜しくお願いいたします。(木下敏雄)
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かるめぎ 86号 2009.11.09(2009-12-10 05:16) |
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北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会:本会は1959年から1984年までの帰国事業で北朝鮮に帰った在日朝鮮人(日本人配偶者等を含む)の生命と人権を守り、自由往来を実現し、被拘束者を解放し、犠牲者の名誉を回復することを目的とする。またその他の北朝鮮の人権問題にも重大な関心を向ける。