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朝鮮学校現代歴史教科書(3)発行 

└ 2010-07-05 09:56

朝鮮高級学校の「現代歴史教科書」第3巻がこのたび翻訳出版されました。
これで、3年間で習う歴史教科書のすべてが日本語となり、一般にも読めるようになったことになります。

この第3巻は、80年代から現代までの歴史について記されていますが、ここでも、まさに北朝鮮における教育そのままの記述と思われる、事実を全く隠蔽、もしくはゆがめたものとなっています。

わかりやすい例を紹介しますと、まず、大韓航空機爆破事件への教科書の記述はこうなっています。

「南朝鮮旅客機失踪事件

1987年11月28日イラクのバクダットを出発しソウルに向かった南朝鮮旅客機が、タイ・ミャンマー国境付近上空で失踪した事件。南朝鮮当局はこの事件を「北朝鮮工作員金賢姫」が引き起こしたとでっち上げ、大々的な犯共和国騒動を繰り広げ、その女を第13代「大統領選挙」の前日に南朝鮮に移送することによって蘆泰愚「当選」に有利な環境を整えた。」

90年代飢餓と大量餓死の時代については「苦難の行軍」を、線軍政治でいかに乗り越えたかが記され、金正日と軍の功績として教えられています。脱北者、とくに黄長ヨプ、安明進等への記述はもちろん皆無です。

金正日が拉致を認めた小泉第一回訪朝についてはこうかかれているだけです。

「2002年9月17日には歴史的な朝日平壌宣言が発表された。」

さらに拉致問題に対しては、122ページに

「2002年9月、朝日平壌宣言発表以後、日本当局は「拉致問題」を極大化し、反共和国、反総連、反朝鮮人騒動を大々的に繰り広げることによって、日本社会には極端な民族排他主義的な雰囲気が作り出されていった」

と記されているだけです。まあ、要するに北朝鮮は悪くなくて日本だけが悪いと。こういう指摘こそが「差別」「歴史への反省なき態度」なのに。横田めぐみさんたち被害者の名前も、救う会運動についても全く触れていません。。

繰り返して言いますが、朝鮮高等学校無償化賛成論、反対論、いずれも、識者、報道関係、そして政治家は、この教科書を実際に読んでから議論してほしいと思います。本書をご希望の方は、ファックス 0729-90-2887 星への歩み出版に申し込まれるか、もしくは私(三浦)あてに、メール miurakotarou@hotmail.com にお申し込みください(三浦)



かるめぎ特別号 クロッシング 

└ 2010-06-02 15:35

クロッシングの特集号です。
pdfファイルを開いてご一読ください






クロッシング号.pdfをダウンロード

朝鮮学校教科書「現代朝鮮歴史 高級2」 

└ 2010-05-20 12:17

星へのあゆみ出版より、朝鮮学校教科書「現代朝鮮歴史 高級2」の日本語訳が発行されました。今回は1953年から1980年までの朝鮮の歴史が記されていますが、こちらも中々すごいことが書いてありますし、同時に都合の悪いことは一切触れられません。

朝鮮戦争で北朝鮮は何万人もの韓国人を拉致したことは、もちろん全く触れられません。そして、我が守る会のテーマでもある北朝鮮帰国事業については、このように記されます。まず、それまでの在日朝鮮人の運動(日本共産党と共闘した民戦の運動)が基本的に間違っていたとして、新たな在日組織が必要だとし、朝鮮総連結成について次のように書かれています。

「敬愛する金日成主席様におかれては、主体43(1953)年9月に、路線転換方針を実現するためには、新しい海外同胞の組織を作らなければならないとおっしゃり、その組織は在日同胞の生活上の問題や共和国の公民権用語の問題、民主主義的民族教育の権利の保護の問題、祖国統一の問題などにもとづいて活動する組織にならなければならないとおっしゃった」

「(1955年)5月25〜26日に東京の浅草公会堂で総連結成大会が開かれた。大会では、主体的路線転換方針を具現した活動方針と創立宣言、8大綱領と規約が採択されて、25日に共和国の海外同胞組織である在日朝鮮人総連合会(総連)の結成が宣布された。敬愛する金日成主席様におかれては、次のようにお教えなさった。『1955年5月25日は、在日同胞にとって忘れられない歴史的な日であります。まさに、この日に総連が結成されて、在日同胞の運命と在日朝鮮人運動の発展に根本的な転換をもたらしました』」

総連が結成時から金日成の完全な主導下にあり、またその目的の一つに、民族教育(まあ本当は金日成・金正日教育)が掲げられているのが解ります。そして、日本の政治に直接かかわるよりは、「祖国統一の問題」、つまり北朝鮮主導の朝鮮半島統一の実現のために、総連は日本で活動をすることが義務となっていたわけです。

帰国事業についての記述を次に引用します。

「(1995年9月29日、在日コリアンの祖国訪問と接見して)敬愛する金日成主席様におかれては、次のようにお教えくださった。『いま、在日同胞の中では確固とした仕事がなく、その日その日を暮らしている同胞が多いと聴いていますが、その人たちの苦労は大変なものでしょう。その人たちが日本で暮らせず祖国に戻るというのであれば、われわれは喜んで迎えるでしょう』」

「在日同胞の帰国運動は1958年8月に、総連の神奈川県川崎支部の中留分会の同胞が、『祖国の話し集会』を開いて、共和国への集団での帰国を決意したのを契機に、いっそう拡大していった。東京で開かれた、祖国解放13周年記念在日本朝鮮人中央慶祝大会など、日本各地で開かれた慶祝大会でも、同胞の帰国への願いのこもった決議を採択し、敬愛する主席様に手紙を差し上げた。」

「総連と在日同胞は(中略)日本の各地で大衆集会や署名運動、日本政府への帰国要請など、さまざまな形と方法で帰国運動を活発に展開した。この運動は、日本人民を始め世界の進歩的人民の幅広い支持を得た。同胞の正当な要求を無視できなくなった日本当局は、帰国協定の締結によって得ることになる政治的、経済的利害関係の打算に基づき、1959年2月13日に在日同胞を共和国に帰国させることに関する決定を下した。」

「朝日赤十字代表団の間の会談の結果、1959年8月13日には、在日朝鮮公民の帰国に関する協定が締結された。そうして、1959年12月14日に、975人の同胞を乗せた最初の帰国線が新潟港を出航して、16日には祖国の清津港に入港することになった。帰国の実現は自主独立国家の海外公民として、在日同胞が民主主義的な民族の権利の擁護のための闘争で勝ち取った勝利となっただけでなく、同胞の力に依拠して繰り広げられる愛国愛族運動の礎となり、高揚の契機となった」

長い引用になりましたが、帰国運動が金日成の指示で、総連が展開したとはっきり書いています。しかし、帰国者は北朝鮮に到着した瞬間から、かの国の貧しさ、自由のなさを知り、総連と北朝鮮の宣伝が嘘だったことを知るのですが、もちろんそのことや、帰国者のその後の運命には一言も触れられていませんし、日本人妻という記述もありません。しかし、総連自身がこのように帰国事業への関与を認めているのに、これでも帰国事業には総連には責任がないと彼らは言い続けるのでしょうか?そして、5月26日に予定されている高政美さんの帰国事業訴訟で裁判長はどのような判断をするのでしょうか?

北朝鮮国内では、特に1967年以後徹底的な弾圧と粛清の嵐が吹き荒れるのですが、もちろんそういうことは一切かかれていません北朝鮮の武装ゲリラによる青瓦台突入事件にも触れません。そして、金正日について記述が現れます。

「(1970年代)共和国の人民の耳目は、1960年代中葉から、敬愛する主席様の領導を積極的に補佐なさり、革命と建設を新しい高い段階にお導きなされる敬愛する金正日将軍様に注がれた。将軍様におかれては白頭山密営(両江道三池淵郡)でお生まれになり、抗日革命闘争と新しい祖国建設、祖国解放闘争と戦後復旧建設の日々の歴史に特記すべき数多くの事変を直接体験なさり、高い資質と高潔な品格を育みなされた」

こういう文章は読んでいていやになるのでいい加減やめますが、これ以後は金正日の美化、そして韓国への誹謗、70年代以降崩れていく北朝鮮経済の実態を無視した偽の発展宣伝が延々と続きます。繰り返しますが、自国の独裁者、しかも世襲の権力者をここまで礼賛し、事実を捏造し歪曲する教科書を使っている学校への公的支援を控えることが、「差別である」と断言できるのでしょうか?

少なくとも、この教科書を読んでから、挑戦学校無償化の是非を議論してほしいと思いますし、海外に誤解を与えないためにも、日本の政治家はまずは一読をお願いします。また、マスコミの方々も、仮に無償化に賛成であれ、この教科書がこのままでいいのかをコメントしていただきたい。このような教科書が今後も使われることは、朝鮮学校の子供達にとって本当に幸せなことなのでしょうか?

金正日が白頭山で生まれたことが嘘であることは皆さんご存知でしょう。しかし、より本質的なのは、日本人を拉致し、核とミサイルを開発し、独裁政権の維持のためには国民が大量に餓死してもなんらかまわないという人間を、このように「高い資質と高潔な品格」を持っていると記した教科書を学ぶ学校に、日本国の公的な支援をするのがふさわしいかどうかということを、まずは教科書を直接お読みいただいて、考えていただければと思います。

本書を希望される方は、星へのあゆみ出版(ファックス 0729-90-2887)もしくは三浦まで直接ご連絡ください。miurakotarou@hotmail.com

朝鮮学校教科書「現代朝鮮歴史 高級1」 

└ 2010-04-27 10:10

朝鮮学校教科書「現代朝鮮歴史 高級1」が翻訳出版!
朝鮮学校教育の実態を知ろう!
三浦小太郎(評論家)

 現在無償化の是非をめぐって揺れている朝鮮学校だが、今回専門家により高校の現代史教科書第一巻が翻訳された(編集 朝鮮高校への税金投入に反対する専門家の会 発行 星へのあゆみ出版 連絡先 電話・ファックス 0729-90-2887)。その内容たるや、捏造と歪曲に満ち、そして金日成崇拝で貫かれている。ある脱北者によれば、北朝鮮での教科書内容そのままだという。

 最も典型的なのは朝鮮戦争についてだ。この戦争が北朝鮮側の侵攻によって始まったことはすでに明らかになっているのに、この教科書ではアメリカと韓国の侵略とされている。「米帝のそそのかしのもと、李承晩は1950年6月23日から38度線の共和国地域に集中的な砲射撃を加え、6月25日には全面戦争へと拡大した。(中略)尊敬する金日成主席様におかれては、会議で朝鮮人をみくびり刃向かう米国のやつらに朝鮮人の根性をみせてやらなければならないとおっしゃりながら、共和国警備隊と人民軍部隊に敵の武力侵攻を阻止し即時反攻撃にうつるよう命令をおくだしになった。」(現代朝鮮歴史 高級1 朝鮮学校教科書より)

 このほかにもとんでもないことが「現代朝鮮史」として教えられている。金日成は常に「敬愛する金日成主席様」と呼ばれ、ソ連軍の傀儡として北朝鮮に送り込まれたことはもちろん記されず、ソ連が満州はもちろん、朝鮮半島で行った暴行も一切記されない。それに比して日米の「犯罪行為」「虐殺」「弾圧」は徹底的に誇張され、時には捏造される。

金日成崇拝と反日、反米史観、それも事実に基づかない捏造の歴史観で貫かれた教科書だ。このような教科書で学ぶ在日コリアンの子供たちこそ被害者である。
 それぞれの国に、それぞれの歴史観があることは否定しないし、各国は互いの歴史観を尊重すべきだろう。しかし、あまりの捏造や、指導者への絶対美化、他国への侮蔑語の氾濫したものを、私は教科書としては認めないし、そのような教科書を使っている学校に、日本国が公的支援を行うのは反対である。

 仮にドイツ人学校が日本にあったとする。その学校が、ドイツの歴史上の偉人などの写真や肖像画を掲げるのは自由だし、ドイツ民族の誇りを教えるのも当然だ。しかし、そのような学校が、ヒトラーの肖像画を掲げ、ヒトラーは敬愛すべき指導者で、彼のユダヤ人虐殺は正しかった、などという教育をしたとしたら、そのような学校に私の税金が投入されることは私は拒否したい。この教科書は、ヒトラー同様の犯罪的な独裁者を美化していることを、ぜひ政治家も、マスコミも知ってほしい。

 朝鮮学校無償化を論じる前に、最低限の知識として、実際にどのような教科書が使われ、どのような授業が行われているかを私たちは知るべきだ。そのための資料として、ぜひこの朝鮮学校現代史教科書のご一読を薦めたい。

追記 この教科書を読んでみたい方は、三浦まで住所氏名を明記の上ご連絡くだされば、郵便振替用紙を同封してお送りします。miurakotarou@hotmail.com
もしくは、上記「星へのあゆみ出版」にファックスなどでお申し込みください。

映画 クロッシング評 

└ 2010-02-23 17:39

以下は、保守ミニコミ「月刊日本」に2ヶ月連続で書いた文章です。

1、全ての国境線を越えて行く映画
「クロッシング」ついに日本公開
三浦小太郎

この2月1日、東京ではしばらくぶりに雪が降った。そしておそらく今この時も、遥かに厳寒の中国境を、雪と氷に覆われた豆満河を越えて、北朝鮮では生きる希望を失った人たちが、自由を求めて韓国や第三国を目指し、あるいは中国で稼ぐ僅かな金銭を家族のために持ち帰ろうと中朝国境を超えて行く。彼らの人の流れは、人間が生きる希望を失わない限りとどまることはない。絶望から希望にむけて、勇気という橋を人間が渡ろうとするとき、権力が作り上げた全ての境界線は越えられて行くのだ。韓国映画「クロッシング」は、このような脱北者、勇気ある越境者たちの物語である。

 この映画は2008年韓国で公開されたが、ついにこの4月、日本公開が決定した。4月17日東京澁谷ユーロスペース、5月1日銀座シネパトス、大阪でも心斎橋で公開が予定されている。北朝鮮や脱北者の実態を知る上で必見の映画であり、是非皆様にも劇場に足をお運びいただきたい。

北朝鮮のサッカー選手で、今は炭鉱町に住むヨンス(チャ・インピョ)と妻ヨンハ(ソ・ヨンファ)、そして11歳の一人息子ジュニ(シン・ミョンチョル)は、貧しくとも幸せな生活を送っていた。政府から貿易を許可され、裕福な生活をしている貿易商サンチョル(チョン・インギ)一家とは家族ぐるみの付き合いで、そこの一人娘、ミソンはジュニと同じ年。本作での北朝鮮の人びとは、たとえ貧しくとも、家族の絆を守り、友情を誓い、そして淡い恋をする、私たちとまったく同じ人間として描かれる。どのような国家体制の中でも、貧しさの中でも、一人一人の人間はこうして生きて行くのだという、キム・テギョン監督の同じ民族同胞への共感に満ちた暖かい視線が漲っている。

しかし、厳しい現実が待ち受けていた。ヨンハは肺結核で倒れ、サンチョルは、友人の妻のために薬を中国から手に入れようとするが、政府が禁止している製品を持ち込んだ罪で連行されてしまう。薬を手に入れる為には、ヨンスは中国に脱出してそこで仕事を探すしか方法がなかった。

しかし、中国では彼ら脱北者は、中国警察に追われる不法入国者に過ぎない。辛い伐採の仕事に耐えてお金をためたというのに、警察の取締りで再び無一文になったヨンスは、脱北者を食い物にしているブローカーの「韓国領事館に駆け込み、そこでインタビューを受ければお金をもらえる」という誘いに騙されて領事館への駆け込みを決意する。

しかし、勿論一度韓国領事館に入った以上、そこから出ることは自殺行為だ。彼はやむなくそのまま韓国にたどり着く。一方、北朝鮮ではヨンスが旅立って2ヵ月後、夫の帰りを待ちわびていた妻ヨンハが息を引き取る。ジュニは、同じく一家を失ったミソンと、同じく孤児として再会する。

この少年と少女をこの後襲う運命は、余りに哀しく、またあくまでも映画的に美しく描かれていくので、ここは是非映画館でご覧になって欲しい。もっとも感動的なシーンは、病み疲れた少女を少しでも楽しませようと、少年が自転車に彼女を乗せて走る場面だ。自転車をもっとも美しく描いた場面として、私はニューシネマに新天地を開いた、「明日に向って撃て」そして北野武の「キッズ・リターン」、そしてこの「クロッシング」を挙げたい。その後、ジュニも父を探して国境を超え、韓国のユソンは何とか息子と再会しようと努力するが、二人を待ち受けていたのはモンゴルの砂漠での余りにも哀しい結末だった。

脱北者ヨンス一家は、北朝鮮からも、中国からも、そしてある意味韓国からも見捨てられた存在だ。北朝鮮は飢餓に苦しむヨンス一家を救うどころか、国民の命よりも核開発を優先し、国家の命令に背くものは連行され暴行を受ける。中国は脱北者を労働力として酷使したあげく、不法入国として北朝鮮に引き渡し、そこでは厳しい拷問や強制労働が待ち受けている。そして韓国にたどりついても、脱北者たちは故郷に残してきた家族の運命が気がかりで真の意味で韓国社会に定着することが中々できない。もっとも惨めなのは、弱い立ち場の孤児達であり、彼らは何の教育もうけないまま精神も肉体も荒廃していく。この構図は、今現在も脱北者の身に起こっている現実なのだ。

北朝鮮国境を超え、不安定な立場で中国やロシアにて生き延びている脱北者の数は、10数万とも言われている。彼らは北朝鮮に強制送還されれば、犯罪者として裁かれることが明らかであるのに、中国政府が彼らを保護しないだけでなく、国際社会も、UNHCRも、何ら有効な保護を行っていない。実際の脱北者は女性が多くを占め、彼女等は人身売買や強制結婚などの悲劇にさらされているが、人権問題に敏感なはずの団体や個人も殆どこの悲劇を看過している。

北朝鮮を巡る6カ国協議は殆ど核開発の問題に絞られ、議長国の中国国内でこのような脱北者の悲劇が起きていることに対し、諸国は沈黙を守って議題に載せようともしていない。各国の国益や安全保障のためには、脱北者の生命も人権も見捨てられているのだ。

 映画をカタルシスで終わらせる為には、最後はヨンス父子が抱き合い無事韓国にたどり着くハッピーエンドの方が遥かに観客の共感は得やすかっただろう。しかし、キム・テギュン監督はあえてそのような結末を選ばなかった。今、目の前で起きている脱北者の悲劇を見据えるためには、その様なお決まりのエンデンイグを選ぶことはできないと判断したのだ。そして、ヨンスとその息子が最後まで希望と夢を捨てずに、あらゆる国家の論理と国境線を乗り越えて行く姿は、いかなる現実にも屈しない意志の力を象徴している。 

それは同時に、ノムヒョン政権という北朝鮮に妥協的で、脱北者問題に冷淡だった政権下で、あらゆる困難を乗り越えてこの映画を完成させた、監督を始め全ての韓国映画関係者の抵抗の精神でもある。彼らもまた、全ての国家の論理を乗り越え、映画という武器で世界に意志を示したのだ。

2、

前号で紹介した脱北者を描いた韓国映画「クロッシング」についてもう一度書き残したことを触れておきたい。この映画には、私としてどうしても忘れられない印象的なシーンがあるのだ。
 韓国の救援団体による脱北者支援、保護のベースになっているのは、多くの場合韓国キリスト教教会である。個人的な印象だが、熱心な支援者には福音派キリスト教徒が多いように思う。

 福音派の信仰について詳しく述べる知識は私にはないが、かなり熱烈な信仰を持った人たちだと考えて欲しい。そして、救援の目的は勿論人道的精神から来るものだが、同時に、キリスト教を布教しようと言う意識が強い。

 ある牧師は、脱北者を中国から東南アジアに密出国させる為にジャングルを超え、その途中で河にはまって命を落とした。中国当局に逮捕され、何年も牢獄で過ごした救援活動家も数多くいる。彼らを見ていると、信仰の力というものがどれだけ人間に勇気を与えるかを教えられるような思いがする。実は私はある時期にキリスト教を自らの信仰として選んだが、それにはこのような救援活動家の姿も多少影響があったことも否定しない。

 しかし同時に、中には多少行きすぎではないかと思われる行為も見られる。宗教的信念の余り、脱北者に聖書を読ませることをかなり強制的に押し付けたり、自らの信仰や運動への確信から、かなり独善的な行動に走る傾向も見られる。映画「クロッシング」は、このあたりもかなり的確に描いている。

 主人公の脱北者、ヨンス(チャ・インピョ)が外国大使館に駆け込むのは、そこでインタビューを受ければお金を貰えると中国朝鮮族ブローカーに言われたからである。彼は韓国に行く気はこの時点ではなく、そのお金を持って北朝鮮に戻り、妻や息子を助けたかったのだ。勿論、一度外国大使館に入り、その姿をテレビカメラが映し出した後に北朝鮮に戻ることなどできるはずも無く、また「お金」も、韓国入国以後定着支援金としてもらえるのであり、簡単に言えば彼はブローカーに騙され、またそのブローカーと組む韓国の救援団体も、脱北者一人一人への丁寧な説明はしなかったことになる。

これが単に救援団体の売名行為ならば、罪は重いが話は単純だ。むしろ、私も含め善意の救援者が独善に陥った時「彼らを助けるのは正義であり、かつ無知な脱北者に丁寧な説明などいらない、韓国や日本に連れてくれば後は納得するだろう」といった傲慢な姿勢になりかねないのだ。

 キリスト教信仰を脱北者に強要するのも、実は全く意味がないわけではない。北朝鮮で、まさにカルト宗教のような洗脳教育を強制され、かつ社会秩序や生産体制が崩壊したことに酔って、労働の価値やきちんとした教育も受けられなかった脱北者に、まず彼らに道徳や勤労の意識を持たせるために、最初の内は「脱カルト化」のためには、近代的な価値概念の基本をなす正統的なキリスト教的価値観を教え込む必要もあるだろう。しかし、これも行き過ぎれば、一つのカルトを脱して、もう一つの狭い価値観のみを信じ込む姿勢にもなりかねない。

「クロッシング」では、韓国に心ならずも住むことになった主人公ヨンスは、妻と子供を助ける為に、まずお金を稼ごうと必死で働く。しかし、思うようにはならず、絶望したヨンスは酒を煽るように飲む。そこに訪れた別の脱北者は、いわばキリスト教会の教えを素直に受け入れた優等生として言う。「酒などのまず、神様、イエス様におすがりするんだ」ヨンスは思わず絶叫する。

「何がイエス様だ。イエス様は、神様は南朝鮮にしかいないのか?神様は豊かな国の人しか救わないのか?」

 この言葉は、口先だけ、綺麗ごとだけの信仰、そして自由、人権を説く全ての偽善者を真っ直ぐに打ち抜く。そして、自分が韓国に来れたことに満足し、キリスト教を無批判に受け入れている脱北者よりも、実は遥かにキリスト教精神の根源に触れている。聖書に書かれたイエスは、ユダヤ教の表面の規則だけを守る偽善者、貧者を救おうとしない豊かな聖職者、そして人間社会の様々な矛盾に常に根源的な批判を投げかけている。そして、自らが十字架に架けられたとき「主よ、主よ、なぜ我を見捨てたのですか」と語っているではないか。この十字架上のイエスの姿は、絶望の中で世界の偽善に怒りをぶつけるヨンスの精神そのものだ。

 結局、ヨンスは息子と妻を助けることができずに終わる。試写会である記者が、この映画の後、ヨンスはどういう人生を送るのだろうか、という質問を、この映画の監督、金テギュン氏に投げかけた。続編など考えたことも無い、と監督は答えただけだったが、ヨンスがこの世界の悲劇を受けとめ、乗り越えていくとするなら、彼の選ぶべき道は、他の脱北者たち、脱北することも出来ずに金正日独裁政権に殺されていく人びとを救うために、かの悪の政権と、それを延命させようという世界の偽善と戦うことでしかないはずだ。

 映画「クロッシング」は、4月17日より澁谷ユーロスペース、5月1日より、大阪シネマート心斎橋、千葉劇場、名古屋シネマスコーレでも公開される。是非足をお運びいただきたい。悪と戦う力を私たちにもたらしてくれる作品である。




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