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NEWS :今回の裁判資料です 
└ 2009-12-02 15:01

平成21年11月30日判決言渡   同日原本領収   裁判所書記官
平成20年(ワ)第7443号 慰謝料等請求事件
口頭弁論終結日 平成21年10月5日
判決
大阪府八尾市●
原告 高 政 美
同訴訟代理人弁護士 藤森 克美
東京都千代田区●
被告 在日本朝鮮人総聯合会
同代表者事務総局長 李 折碩
同訴訟代理人弁護士 稲葉 不二男
同 古川 健三
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する昭和38年10月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,昭和34年に日本赤十字社と朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)赤十学会との間で締結された本邦に居住する朝鮮人(以下「在日朝鮮人」という。)の北朝鮮への帰国に関する協定に基づいて,昭和 38年10月に本邦から北朝鮮に帰国し,その後,北朝鮮において悲惨な処遇を受け,肉体的,精神的抑圧及び苦痛を受けたとして,①被告が北朝鮮政府の 指示に従い,いわゆる帰国事業という誘拐行為を企画推進し,原告を北朝鮮に帰国せしめた,②被告と帰国希望者との間には,帰国契約又は参画契約というべき契約関係が成立しており,被告は,これらの契約に基づいて,帰国希望者であった原告に対し,北朝鮮における日本からの帰国者の実情等について説明すべき義務及び原告の基本的人権を保護すべき義務があったにもかかわらずこれを怠った,③被告は,原告に対し,信義則上あるいは公法上の法律関係上, 北朝鮮における日本からの帰国者の実情等について説明すべき義務及び原告の基本的人権を保護すべき義務があったにもかかわらずこれを怠ったなどと主張して/被告に対して,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償及びこれに対する昭和38年10月18日(原告の出国の日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(認定に用いた証拠等は括弧内に記載する。)
(1) 当事者
原告は,昭和35年9月23日に大阪市内で出生し,昭和38年1O月18日にいわゆる帰国事業により第111次帰還船で本邦から北朝鮮に帰国した在日朝鮮人であり,平成15年11月に北朝鮮から中華人民共和国(以下「中国」という。)に出国後,平成17年7月28日に本邦に入国し,現在は本邦に居住している(甲32, 弁論の全趣旨)。
被告は,朝鮮半島の統一及び在日朝鮮人の権利擁護等を目的とする団体であり,規約に基づいて組織として意思決定をし,代表者によって行動し,団体の独立財産を有する,いわゆる権利能力なき社団である(甲33,弁論の全趣旨)。
(2) 帰国事業の概要等
本邦政府は,昭和34年2月13日,基本的人権に基づく居住地選択の自由という国際通念に基づいて,日本赤十字社が赤十字国際委員会の協力を得て,在日朝鮮人の北朝鮮への帰国事業を行うことを閣議了解した。これを受けて,日本赤十字社は,北朝鮮赤十学会と交渉を行い,同年8月13日,カルカッタにおいて,北朝鮮赤十字会との間で,在日朝鮮人の帰還に関する協定(以下「本件協定」という。)を締結した(以上,当事者間に争いがない。)。本件協定に基づき,同年12月14日以降,在日朝鮮人で北朝鮮への帰国を希望する者が,順次,新潟港から帰国専用船で北朝鮮に集団永住帰国した。本件協定では,乗船までの費用を日本国政府が負担し,帰国船の配船と帰国後の生活を北朝鮮が保障することとされていた(以上,乙1,弁論の全趣旨)。
(3) 本件訴訟の提起
原告は,平成20年6月13日,本件訴訟を提起した。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は,①不法行為に基づく損害賠償請求の可否,②帰国契約ないし参画契約に基づく説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求の可否,③信義則上あるいは公法上の説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求の可否の3点であり,これらの点に関する当事者の主張は以下のとおりである。
(1) 争点①(不法行為に基づく損害賠償請求の可否)について
ア 原告の主張
(ア)不法行為の成立
北朝鮮政府は,いわゆる帰国事業において,在日朝鮮人を労働者,金づるないしは人質として利用するため,不実の宣伝と誇大広告により在日朝鮮人を欺閔して北朝鮮に連れて行ったのであり,このような行為は誘拐・拉致に該当する悪質な違法行為であるところ,被告は,北朝鮮政府の指示命令に従い,上記のとおり誘拐・拉致に該当するいわゆる帰国事業を積極的に実行し,北朝鮮が「地上の楽園」というべきものでないことを知りながら,北朝鮮を「地上の楽園」と宣伝して,誘拐行為を実行した。したがって,被告は,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
(イ)原告の損害
上記誘拐行為により,北朝鮮に入国後,当時幼かった原告は,兄の政治犯収容所への抑留及び同所での死亡,帰国者であることを理由とする学校でのいじめ,養父の抑留及び凄惨な姿での帰還により,多大な精神的損害を受け,また,平成12年の1度目の脱北失敗後に北朝鮮に強制送還され,北朝鮮の国家保衛部に拘留され,苛烈な拷問を受け,肉体的,精神的抑圧及び苦痛を被った。
以上の原告の損害を慰謝するには,1000万円が相当であり,また,本件訴訟に要した弁護士費用として,100万円が相当である。
(ウ)除斥期間の未経過
原告は,昭和38年10月18日に本邦を出国してから平成17年7月28日に本邦に入国するまで,北朝鮮で暮らし,あるいは中国で潜伏生活を送っていたところ,厳しい言論,行動統制がある北朝鮮や親北朝鮮の立場をとっていた中国に滞在していた間に上記不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することは不可能であったから,昭和38年10月18日から平成17年7月28日までの間,除斥期間は停止しており,除斥期間は経過していないというべきである。
イ 被告の認否,反論
不知ないし争う。
原告が昭和38年10月18日に本邦を出国してから平成20年に本訴を提起するまでに既に約45年を経過しており,除斥期間が経過したことは明らかである。
(2) 争点②(帰国契約ないし参画契約に基づく説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求の可否)について
ア 原告の主張
(ア) 帰国契約に基づく説明義務ないし保護義務違反
a 帰国契約の締結
原告は,原告の母を法定代理人として,被告所定の帰国申請書に署名することにより,被告との間で帰国契約(その法的性質は準委任契約)を締結した(なお,同契約には,法の適用に関する通則法(平成18年6月21日法律第7'8号。以下「通則法」という。)附則3条3項,法例(明治31年6月21日法律第1O号。以下「旧法例」という。)7条2項により,帰国契約を締結した行為地である日本の法律が適用される。),
なお,被告と帰国者との間に帰国契約が交わされていたことは,被告の帰国者に対する役務提供の事実,すなわち,被告は,被告の働きかけを受けて帰国することとなった者に対し,帰国の準備から新潟への移動,船に乗り込むまでのすべての手続や行動を立案し実行していき,帰国者は被告の指示に基づいて行動していくという関係から明らかである。
b 帰国契約に基づく説明義務ないし保護義務違反
上記帰国契約に基づき,被告は,帰国者たる原告に対し,帰国の目的(差別や奴隷的拘束がなく,思想,良心の自由,表現の自由,集会,'結社の自由,居住,移動及び職業選択の自由,学問の自由など基本的人権を享受する自由が保障され,飢えや欠乏のない生活,すなわち健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を北朝鮮が保障すること)が達成できるように,北朝鮮の実体(自由,差別,弾圧,生命身体の安全の有無),先行帰国者の実態についての政治的,経済的,社会的,文化的な環境のすべてにわたり,原告ないしはその法定代理人たる原告の母に説明する義務を負い,また,原告が帰国した後は,帰国に際し,被告が帰国者たる原告ないしは法定代理人たる原告の母に保障したように,原告が生命,身体の安全を脅かされることがなく,抑圧,隷属,差別もなく生活できるように原告の動静を調査把握し,帰国の目的が達成できるよう北朝鮮に働きかけ,原告を擁護する義務を負っていたにもかかわらず,被告はこれらの義務を怠った。
c 原告の損害
被告の上記義務違反により,原告は,上記(l)ア(イ)と同内容の損害を被った。
(イ) 参画契約に基づく説明義務ないし保護義務違反
a 参両契約の締結
原告と被告は,原告の母ないし養父が被告への参画を被告の支部幹部に表明することにより,被告への参画契約を締結し,原告の母ないし養父は,被告に対し,月ないし年払いの会費を支払った。
b 被告の綱領の内容及び被告とその構成員の関係
被告は,昭和38年当時,以下の内容の条項を含む綱領(以下「本件綱領」という。)を定めていた。
(a)  われわれは,すべての在日朝鮮同胞を朝鮮民主主義人民共和国政府のまわりに総結集し。祖国南北半部同胞との連携と団結を緊密,強固にする。
(b)  われわれは,祖国の主権と領土を侵害し,内政に干渉するアメリカ帝国主義者をかしらとするいっさいの外来侵略者を撤去させ,その手先,かいらい徒党を孤立させ,祖国の平和的,統一独立のために献身する。
(c)  われわれは, 在日朝鮮同胞の居住,職業,財産および言論,出版,集会,結社,信仰など,すべての民主的民族権益と自由を擁護する。
(d)  われわれは,在日朝鮮同胞子弟に母国のことばと文字で民主民族教育を実施し,一般成人のなかに残っている植民地奴隷思想と封建的遺習を打破して,文盲を退治し民族文化の発展のために努力する。
(e)  われわれは,共和国公民の栄誉を固守して,在日朝鮮同胞に対する強制収容,強制追放に反対し,その犠牲者を救済するため努カする。
(f) われわれは,祖国と日本との経済文化の交流,通信,往来の自由および国交の正常化と,両国民の友好親善のために努力する。
 被告は,上記綱領に掲げられた目的の実現のために,構成員の組織化を図り,末端まで統制を取った上,商工会や青年同盟,女性同盟などの各種団体を組織し,出版社や各種学校等を運営するなど,構成員の生活全般に深く関与していた。
c 参画契約に基づく説明義務ないし保護義務違反
上記a,bによれば,被告は,原告に対し,上記(ア)bと同様の義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った。
d 原告の損害
被告の上記義務違反により原告は,上記(1)ア(イ)と同内容の損害を被った。
イ 被告の認否及び反論
原告と被告が,帰国契約や参画契約なる契約を締結したことは否認し,その余は争う。
いわゆる帰国事業は,日本赤十字社において帰国希望者の自由な意思を確認してなされたものであり,原告と被告の間で契約を締結したことはない。
なお、原告とその母親の間の法定代理関係については,通則法32,33条及び38条3項により,北朝鮮と大韓民国のいずれが当事者とより密接な関係を有するかによって準拠法を決定すべきであり,その他の契約関係に関する部分は,原告は,実質的には不法行為に基づいて,北朝鮮内で原告に生じた損害の賠償を請求しているに他ならないから,旧法例11条(1項により,北朝鮮法を準拠法とすべきである。
(3) 争点③(信義則上あるいは公法上の説明義務ないし保護義務違反(安全配慮義務違反)を理由とする損害賠償請求の可否)について
ア 原告の主張
安全配慮義務は,私法上の直接の契約関係にある者に限らず,公法上法律関係に基づき契約類似の関係に入った当事者間においても,信義則上,「生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべきである」という契約上の債権債務と同様の効果を生じさせるものである。
(ア)信義則上の説明義務ないし保護義務違反
a  被告は、いわゆる帰国事業において,帰国申請書の取りまとめ,財産処分等の帰国準備,新潟での生活支援等の帰国業務を行っており,被告には当然に帰国者に対する安全配慮義務が生じるといえる。ところが,被告は,原告の母に対し,帰国後の原告及びその家族の生活並びに生死に関する真実の情報を与えず,北朝鮮に行けば心配なく生活できると誤信させ,その結果,原告の母は北朝鮮への帰国を決心するに至ったのであるから,被告は,信義則上の説明義務に違反したのであり,その結果,原告は,上記田ア(イ)と同内容の損害を被った。
b  前記(2)ア(イ)bによれば,被告とその構成員たる原告の母ないし養父との間には。特定の法律関係に基づく特別な社会的接触の関係が存在していたといえる。そして,北朝鮮への帰国は生死に関わる問題であって,人の一生の問題を決定づけるような重大な事項であるから,被告は原告に対し,信義則上,原告が生命,身体の安全を脅かされることがなく,抑圧,隷属,差別もなく生活できるように原告の動静を調査把握し,帰国の目的が達成できるよう北朝鮮に働きかけ,原告を擁護する義務を負っていたにもかかわらずこれを怠り,その結果,原告は,上記(1)ア(イ)と同内容の損害を被った。
(イ) 公法上の説明義務ないし保護義務違反
原告は,北朝鮮という国家の公民として帰国し,他方,被告は,北朝鮮から委託を受けて,いわゆる帰国事業の手続の代行をしており,北朝鮮の機関の地位にあったから,原告と被告とは,公法上の法律関係に基づき契約類似の関係に入ったということができ,被告は,原告に対し,上記(2)ア(ア)bのとおりの義務を負っていたにもかかわらずこれを怠り,その結果,原告は,上記(1)ア(イ)と同内容の損害を被った。
イ 被告の認否,反論
争う。
第3 争点に対する判断
1 争点①(不法行為に基づく損害賠償請求の可否)について
原告は,被告の誘拐行為により昭和38年10月18日に本邦を出国したと主張しているところ,原告が昭和38年10月18日に本邦を出国したことは前提事実のとおり認められるから,原告が主張する不法行為に基づく損害賠償請求の可否については,通刑法附則3条4項,旧法例7条2項により,我が国の法律が適用される。
そして,民法724条後段の規定は,不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであるところ,除斥期間は,一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めるものである。したがって,当該不法行為それ自体あるいは不法行為者の別の行為により権利行使がいったん不可能となったまま不法行為の時から20年間経過し,権利行使の可能 性が回復してから6か月以内に不法行為に基づく損害賠償請求権を行使した揚合など,正義,公平の観点及び民法158果1項,160条の法意に照らして,民法724条後段の効果を制限すべき特段の事情があるとき(被害者を殺害した加害者が,被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使した場合(民法160条参照)や,不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6か月内において当該不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において,その後当該被害者が後見開始決定を受け,後見人に就職した者がその時から6か月内に当該不法行為による損害賠償請求権を行使した場合(158条1項参照)など)を除いては,当事者の主観的事情にかかわらず,不法行為の時から20年の経過により除斥期間は経過すると解するのが相当である。
前記前提事実によれば,原告は,昭和38年10月18日に本邦を出国し, 平成20年6月13日に本件訴訟を提起したことが認められ,原告が主張する不法行為の時から本件訴訟を提起するまでに44年以上の期間が経過していたことが認められる。また,原告が平成17年7月28日に本邦に入国したことも前提事実のとおりであって,原告が平成17年7月28日に本邦に入国してから本件訴訟を提起するまでに2年10か月余りが経過していたこと,本件全証拠によっても,その間原告にとって除斥期間の進行をさらに停止すべき特別の事情があったとは認められないことにかんがみると,正義,公平の観点及び民法158条1項,16 0条の法意に照らし,民法724条後段の効果を制限すべき特段の事情があるということはできない,そうすると,原告が主張する不法行為に基づく損害賠償請求権は,既に除斥期間の経過により消滅しているというべきである。
したがってその余の点について判断するまでもなく,不法行為に基づく原告の損害賠償請求には理由がない。
2 争点②(帰国契約ないし参画契約に基づく説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求の可否)について
(1)準拠法
原告が主張する帰国契約ないし参画契約の締結に関し,当事者の意思は明らかでないから,両契約に基づく損害賠償請求の可否の判断にあたっては,通則法附則3条3項,旧法例7条2項により,帰国契約ないし参画契約を締結した行為地である日本の法律が適用されるというべきである。
(2)帰国契約に基づく損害賠償請求の可否
原告は,原告の母を法定代理人として,被告との間で帰国契約を締結したと主張し,証人山田文明もこれに沿う証言ないし陳述をする(証人山田文明(以下「証人山田」という。)3頁,甲88の26頁)。
しかしながら,証人山田は,原告と被告との間で帰国契約が締結された根拠として,被告が,帰国申請者の取りまとめ,財産処分等の帰国準備,新潟での生活支援等,いわゆる帰国事業の実務を取り仕切ったということを掲げているにすぎないところ(証人山田4ないし5頁),被告が帰国事業の実務を取り仕切っていた事実から直ちに原告と被告との間に「帰国契約」なる契約関係が成立していたものと認めることは困難である。むしろ,前提事実,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,原告の母を通じ,本件協定に基づき,日本赤十字社に対して帰国申請書を提出し,北朝鮮に帰国したことが認められることに照らすと,原告の昭和38年10月18日の北朝鮮への帰国は,あくまでも原告,日本赤十字社,北朝鮮赤十字会及び北朝鮮政府を当事者として行われたものと評価するのが相当である。したがって,証人山田のうち,前記証言ないし陳述部分は採用することはできず,ほかに原告が主張する帰国契約の締結を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,その余の点について判断するまでもなく,原告が主張する帰国契約に基づく説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求は理由がない。
(3)参画契約に基づく損害賠償請求の可否
また,原告は,原告の母ないし養父が被告に参画したことで参画契約が締結されたとして,同契約に基づく注意義務違反を主張する。
しかしながら,被告がいわゆる権利能力なき社団であることは前提事実のとおりであるが,被告が本件綱領を定め,構成員の生活全般に深く関わっており,また,原告が被告に参画し,構成員の一般的義務として被告に対して会費を支払うことになっていたからといって,これらの事実をもってしても直ちに権利能力なき社団である被告とその構成員である原告との間に「参画契約」等何らかの契約関係が成立したことにはならない。そうすると,原告が被告の構成員になったことから直ちに,原告の主張するような注意義務を被告が負うものではないというべきである。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告が主張する参画契約に基づく説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求は理由がない。
(4) 以上によれば,原告が主張する帰国契約ないし参画契約に基づく説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求は認められない。
3 争点③(償義則上あるいは公法上の説明義務ないし保護義務違反(安全配慮義務違反)を理由とする損害賠償請求の可否)について
(1)安全配慮義務について
安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務である。したがって,安全配慮義務を負うか否かは,当事者間に安全配慮義務を基礎付けるに足る特定の法律関係の存在を前提に,当該法律関係の内容や両者の社会的接触の態様,程度等諸般の事情を勘案して,当事者間に,ある法律関係に基づく特別な社会的接触が認められるかという観点から判断すべきである。
(2) 安全配慮義務としての信義則上の説明義務及び保護義務違反の有無について
ア 安全配慮義務としての信義則上の説明義務違反について
原告は,いわゆる帰国事業において,被告が帰国申請書の取りまとめ, 財産処分等の帰国準備,新潟での生活支援等の帰国業務を行っていることを根拠として,被告は原告に対する安全配慮義務としての説明義務を負うと主張するが,原告が主張する安全配慮義務としての上記説明義務の根拠は,社会生活上の具体的事実関係(状況)にすぎず,特定の法律関係を前提としたものでない。したがって,原告は,被告に対し,上記のような具体的事実関係(状況)から導かれる一般的義務を根拠に,不法行為に基づく責任ではなく,安全配慮義務違反としての責任を問うことはできないというべきである。
イ 安全配慮義務としての信義則上の保護義務違反について
原告は,被告とその構成員たる原告の母ないし養父との間には,特定の法律関係に基づく特別な社会的接触の関係が存在していたこと及び北朝鮮への帰国が生死に関わり,人の一生を決定づけるような重大な事項であることを根拠に,被告には信義則上の保護義務が存在するとも主張する。
しかしながら,原告が,被告とその構成員たる原告の母ないし養父との間には特定の法律関係に基づく特別な社会的接触の関係が存在していたとする根拠のうち,まず,原告の母ないし養父が被告に加入していたとする点については,原告の母ないし養父が被告に加入し,原告が被告の構成員又は構成員に準じる地位(以下「構成員等」という。)になったとしても,被告と原告との間には,単に権利能力なき社団と当該社団の構成員等にあるという一般的,抽象的な法的関係が認められるにすぎず,両者の間に何らかの具体的な権利義務が発生するような法律関係が当然に認められるものではない。次に,原告は,昭和38年当時,被告が本件綱領を定めていたことも,被告とその構成員たる原告の母ないし養父との間に特定の法律関係に基づく特別な社会的接触の関係が存在していたことの根拠とするが,原告が主張する本件綱領の内容にかんがみると,本件綱領は,被告の理念ないし活動目標といったものを定めたものにすぎず,被告あるいは被告の構成員等である原告に対し,権利能力なき社団とその構成員等という一般的抽象的な法的関係を超えて,何らかの具体的な法的権利ないし義務が発生することを規定したものではない。さらに,原告は,原告の母ないし養父が,被告に対し会費を負担していたとも主張するが,会費は構成員としての一般的な義務にすぎず,本件全証拠によっても,会費を支払うことの対価として,あるいは支払に付随して,被告が原告の母ないし養父に対し,何らかの具体的な法的義務を負っていたことを認めるに足りない。
上記のとおり,原告と被告との間には,権利能力なき社団とその構成員等という一般的抽象的な法的関係があるにすぎず,被告が信義則上安全配慮義務としての保護義務を負う前提となるような権利義務ないし法的関係は認められないというべきである。そうすると,被告が構成員の生活に深く関与していたことや,北朝鮮への渡航が,人の生死に関わり,人生を決定づけるような重要な事項であるといった社会生活上の具体的状況が認められるとしても,被告が,原告に対し,信義則上,安全配慮義務としての保護義務を負うことにはならないというべきであり,その他,被告に対する安全配慮義務を基礎付けるに足りる原告と被告との間の法的関孫も認められない。
ウ 以上のとおり,被告は,安全配慮義務としての信義則上の説明義務及び保護義務を負わないから,その余の点について判断するまでもなく,原告が主張する安全配慮義務違反としての信義則上の説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求には理由がない。
(3) 安全配慮義務としての公法上の説明義務ないし保護義務違反の有無について
原告は,被告が,北朝鮮から委託を受けていわゆる帰国事業の手続の代行をするという北朝鮮の機関の地位にあったことを根拠に,北朝鮮の公民として帰国した原告と被告は,公法上の法律関係に基づき契約類似の関係に入ったと主張する。
しかしながら,単に国家とその国民であるという一般的な法的関係のみを前提として,当該関係に基づく付随義務として国家に安全配慮義務が課されることはないというべきであり,同様に,被告が北朝鮮の機関であったとしても,そのことから直ちに,被告が北朝鮮国民との間で,安全配慮義務を負うことにはならないというべきである。
そうすると,被告が北朝鮮の機関であることのみをもって,被告が原告との公法上の法律関係に基づく安全配慮義務違反としての信義則上の説明義務ないし保護義務を負うということはできず,その他,被告に対する安全配慮義務を基礎付けるに足りる原告と被告との間の法的関係は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告が主張する安全配慮義務違反としての公法上の説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求には理由がない。
(4) したがって,原告が主張する安全配慮義務としての信義則上あるいは公法上の説明義務ないし保護義務違反を理由とする損害賠償請求は認められない。
4 よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することになる。

大阪地方裁判所第20民事部
裁判長裁判官 徳  岡  由 美 子
裁判官 下  澤  良  太
裁判官 野  口  晶  寛






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